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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)379号 判決 1960年7月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人井藤誉志雄の上告理由第一点について。

記録によると、昭和三三年一〇月九日言渡にかかる本件第一審判決の正本は同月二五日控訴人(原告)代理人に送達されたところ、その後第一審裁判所書記官は右判決正本を右代理人より回収した上、右正本に判決正本の補正名義の下に、さきに記載を脱漏していた判決の言渡及び交付の日のみを新に附記し右正本は同年一一月八日右代理人に再度送達され、その間控訴人側は一時右判決正本を手許に持たなかつたけれども、再送達された正本はその当事者、事件、主文、事実及び理由、裁判所の構成の表示その他において何ら最初の送達にかかる判決正本の形式、内容と異るところがなかつた事跡が認められる。けれども元来民訴一九二条は訓示規定であつて、裁判所書記官がこれに違反して附記捺印をしなくても判決に不法あるものといい難く、この附記捺印を除くその余の部分が原本の記載と一致する判決正本はその効力を有するものというを妨げない。上告人(控訴人)代理人は最初の送達により判決内容を知る機会を持つた訳であり、これによつて控訴を提起するに支障を来すものとは認められない。されば本件第一審判決正本の送達は最初の送達によつて適法有効になされたもので控訴期間は右送達の翌日から起算して二週間を経過した同年一一月八日をもつて満了するのであるから、同月一三日提起された本件控訴は不適法のものというのほかない。これと同趣旨に出でた原判示は相当であつて論旨は理由がない。

同第二点について。

記録によると、上告人は原審で控訴申立の追完を別段申立てていないのみならず、本件控訴提起期間は前段説示の如く最初の送達を基準として昭和三三年一一月八日満了するところ、再送達報告書(記録四〇〇丁)によれば右附記された判決正本は同日午前九時四〇分同じ控訴人代理人の事務所に送達されており、この正本は前点説示のとおりのもので、最初送達された正本とその本質的部分において相違するところがないのであるから、別段の事由のない限り、一一月八日中に控訴を提起することは可能であつたものと認むべく、その期間不遵守につき所論のような当事者の「責ニ帰スベカラザル事由」があつたものと解することはできない。それゆえ所論追完を許すべき場合に当らずとし、控訴を不適法として却下した原判決は相当であり、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋 潔 裁判官 石坂修一)

《当事者》

上告人 金沢泰三

右訴訟代理人弁護士 井藤誉志雄

被告人 兵庫県

右代表者知事 阪本 勝

右訴訟代理人弁護士 雨宮清明 栗岡富士雄

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